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「熱が出たら、すぐに解熱剤」は正解?「熱中症は、熱が下がれば大丈夫」は間違い?

 冬のインフルエンザと同様、夏になると(近年では梅雨明け前から)熱中症に関する数多くの報道が目につきます。昨年6〜9月の4か月間、熱中症として救急車で搬送された患者数だけでも全国で58,729人(総務省消防庁調べ)にのぼりました。インフルエンザも熱中症も重症であれば生死にかかわるものですが、適切な対策をすれば、ある程度まで防ぐことができるとされています。とりわけ「熱中症の予防は難しいことではない」とおっしゃるのは、今回取材をさせていただいた永島計教授です。そうした予防法とともに、専門分野である体温・体液の研究をもとに、「熱中症の治療薬を創りたい」という想いもうかがいました。


永島教授

1960年生まれ。大阪府立四條畷高校卒、'86年京都府立医科大学医学部医学科卒、'95年同大大学院研究科(生理系)修了。博士(医学)。京都府立医科大学付属病院医師、アメリカ・Yale大学医学部ポスドクアソシエート、大阪大学医学部講師などを経て、2004年4月から現職。共編著に『からだと温度の事典』(朝倉書店)がある。
※所属、役職などはすべて取材時のものです。

腋下温と体温は別もの?

 「体温」ときくと、多くの方は発熱時などに家の体温計で計った温度を連想されるでしょう。しかし、私たちの研究領域でいう体温とは、身体の中心の温度のことで、深部温(コア温)とよびます。腋下温が36℃台のかたも基本的に脳や心臓、肝臓などの身体の深部の温度は37℃で、その誤差は±0.2〜0.3℃の狭い範囲に厳密に保たれています。ヒトの温度センサーは、一定の体温を保つため、実に正確に機能しているわけです。なぜでしょうか。
 動物、植物に関係なく、生命が生きていくにはタンパク質である酵素の働きが不可欠です。生命活動の基本は物質分解と物質合成、言い換えれば化学反応とみなせます。たとえば、ご飯やパンなどに含まれる炭水化物は、唾液アミラーゼという酵素による麦芽等への分解から始まり、さらに胃や小腸で他の数種類の酵素の働き等により消化され、最終的にグルコースとなりエネルギー源となります。グルコースはさらに細胞内の多くの酵素により分解され、あるいは別の酵素の作用により肝臓や筋肉にグリコーゲンとして合成され蓄えられます。大部分の酵素には、一番よく働く温度域があります。ヒトの場合38〜39℃ぐらいで最もよく働く酵素が多くあります。腋下温でたとえれば、「熱がある」温度域です。ただ、もっと上がってしまうと、酵素はタンパク質なので、熱でその構造が壊れてしまいます。おそらく、ヒトの安全センサーは安全域をもって、少し低めの37℃あたりに設定しているのではないでしょうか。

体温調節とは?

 生命を維持するため、自分の酵素がよく働く温度にもってくることが体温調節の最終目的です。恒温動物も変温動物もみんな体温調節をします。変温動物は環境の温度に大きく左右されますが、彼らは、体温をなすがままに上がり下がりさせているわけではなく、自分の体温を維持するのに最適な環境を探して行動します。カメだったら甲羅干しですね。また、変温動物は冬眠といっても本当に眠るわけじゃなく、穴倉を掘ってそこでじっとして熱が逃げないように調節しています。環境変化による体温変動は大きいですが、やはり身体にいい温度にしたいわけです。それを行動性体温調節と言い、変温動物はそれしか体温調節の手がありません。
 同様に、恒温動物であるヒトも行動性体温調節をします。洋服を着たり脱いだり、エアコンをつけたり切ったり、寒い日はカイロを携帯したり。恒温動物の場合、それ以外に自律性体温調節も行います。自ら熱をつくったり、熱が逃げないようにする仕組みをいかして、酵素の働きが一番いいところに体温をもってくる。たとえば筋肉とかは熱をつくる器官ですし、副産物として熱がうまれる場合もある。筋肉本来の目的は体を動かすことですが、運動することで副産物として熱ができてしまう。逆に熱を逃がすには、汗をかいたり、皮膚の血管を拡張させたりして調節しています。おおまかですが、これが体温調節のメカニズムです。

あなたの平熱は何度ですか?

 さて、脳や心臓などの深部温はほぼ37℃で個人差はさほどないと話しましたが、腋下温など体表で計ると個人差があります。同じ人でも日内リズムにより、目覚め時に比べると夕方遅くの時間帯が一番高くなり、だんだん下がっていきます。若い女性なら目覚め時に計る基礎体温は約1か月単位で、一定の周期をもって0.3〜0.5度ほどの範囲内で上下変動します。発熱の目安ともなりますので、安静時の自分の平熱を知っておくことはとても大事なことです。朝とか夕方とか同じ時間帯で計るようにし、環境の温度でも平熱は変わりますので、1年を通して計測しておくとよいでしょう。
 また、日内リズムで言えば、導眠、睡眠のきっかけは体温と密接に関係していると言われています。眠りに入る前というのは皮膚に血流が増えて熱が逃げ、体温が下がったのをきっかけに眠りが始まります。それがなぜか…は実はまだわかっていないのですが、寝る前に風呂に入って熱が逃げやすいような状態にしておくと寝つきやすい。ネズミを使った実験でも、入浴させたわけではありませんが(笑)、すっと体温が下がるのをきっかけに眠りに入るのが観察されます。

発熱したら解熱剤で下げる?

 自分の安静時の平熱より1℃以上高ければ発熱とみなします。しかし、少し熱が上がったからといって、あわてることはありません。熱が出るのは身体が酵素の働きを上げようとしているからで、酵素からするととてもいい状態。発熱は病気じゃなく、人間の正常な免疫反応だと考えてください。発熱は細菌とかウィルスとかの異物を排除するうえでとても大事なことで、受験本番など以外の頭を使わなくていいときは解熱剤を飲まないほうがいい。基本的に1〜2日ぐらいの熱だったら飲まないほうが「予後がいい、治りが早い」というデータもあります。私は38.5℃ぐらいになってはじめて解熱剤を使いますね。
 発熱により、免疫反応の一つでサイトカインという物質が出て免疫をどんどん活性化していきます。ある種のものは、気持ちを悪くさせたり、だるくさせたりという作用があり、熱が上がるとそういうものが出やすくなります。「身体がだるい」「食欲がない」というのは、サイトカインの作用の一つで、「安静にしなさい」という身体の中からのメッセージだと思います。
 また、発熱すると頭を冷やしたりしますが、実はそれでは熱は下がらないんですね。温度感覚の問題にすぎず、身体から熱をとる意味はほとんどありません。運動や発熱で体温が高くなったとき、腹部を冷やしても気持ちはよくない。頭とか首筋を冷やすと冷感がうまれ、気持ちがいい。どちらも実際は冷えないんですが、ただ熱感にともなう「だるい、しんどい」とかという気分が軽減されるという効果はあります。
 発熱自体でヒトが死ぬことはありません。ただし次に述べるように、熱中症は死につながりますので、予防が不可欠です。

熱中症は再発する?

 基本的に発熱時の体温はおおよそ41.5℃以上には上がらない仕組みになっています。それが「なぜか」はまだわかっていないのですが、熱中症の場合、生命の危険が増す42℃以上になることがあります。体温調節がうまくできなくなったり、それ以上の熱が加わってしまったときに熱中症になります。大きな問題点はいったん熱中症になると体温調節が破綻してしまうこと。氷などで冷やして37℃に戻っても、放っておくと、暑くもないのにまた勝手に体温が上がってしまう。あるいは、「外乱」と言いますが温度が変わったり、自分で動いたりしたときに、体温調節がちゃんとできなくなって問題を起こしてしまう。入院先でいったん元に戻っても、時間が経つと何の刺激もないのに体温が上がったり、逆に下がってしまうような状態になることがあります。これは重度熱中症で見られる症状の一つです。治ったと思ってから1週間後にまたおかしくなってしまった事例も報告されています。ほとんどは適切な治療で治りますが、なかにはずっと身体の調子が悪い状態が続く方もいて、再び暑い環境にさらされるとすぐに熱中症になってしまい、それで死に至る例もあります。いくら身体を冷やしても、体が熱を逃がさないようにする反応を起こして体温が下がらない、すごく体温が上がっているのに震えなど熱をうみだす症状が出たりすることもあります。
 諸説ありますが、私は熱中症の根本的な原因として脳の体温調節の仕組みが壊れるからじゃないのか、神経のダメージを起こすようなものができてしまうのではないかと考えて研究をしています。まだ漠然としていますが、原因究明に努め、その状態を元に戻す薬を創りたい。熱中症になった人が病院に運ばれたら、身体を冷やしつつ、点滴などでその薬を入れて体温調節を正常に戻して、一人でも亡くなる方を減らせたらと考えています。

熱中症にならない方法とは?

 最後に、簡単ですが熱中症の予防について。熱中症の原因は、脱水とか、高温高湿の環境で運動など熱がうまれるようなことをするとか、高齢者だったら部屋が暑いのに気づかずにそこに居続けてしまうとか。ですから、予防は実に単純なことです。クーラーをつける、極度に悪い環境で運動しない、運動するときには十二分に水分を摂るなどの対応が基本です。高齢者の方は、自分の感覚だけに頼らずに、室内の温度や湿度をチェックすることだけでも大きな予防効果があります。
 熱中症は健康な人にも若い人にも万人に突然起こる病気だと言えます。若年性の熱中症は運動や脱水などがきっかけとなりますが、高齢者の場合はちょっとタイプが違っていて、体温調節ができないことに起因していることもあります。汗をかきにくい、あるいは温度感覚の問題で環境温が変わったのを感じにくく、かなり室温が高いときでもストーブをつけてコタツにすっぽり入り、平気な顔をしている。熱は万人、平等に入ってきますが、高齢者は熱を逃がすような行動性体温調節がにぶっていたり、自律性の機能が落ちていたりするためだと思われます。
 あとは温度感覚ですね。人間の温度感覚には2種類あり、普通に、温度が上がった、下がったという温度感覚と、もう一つは、それが自分にとっていいかどうか、快適かどうか。温熱的な快適性は、なぜうまれるのか。脳の中でどのようにその感覚がつくられるかは、わかっていません。これを明らかにすることも私の大きな研究課題の一つです。







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