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Family Academy

文章力=読む力  読み手として理解する能力を育もう

 近年の大学入試では、推薦入試やAO入試に留まらず、一般入試でも「志望理由書」の提出を求める大学が出てきています。受験生には、限られた字数の中で、伝えたい内容を的確に表現する文章力が求められているのです。ただ、読み手に対して、説得力のある文章を書くことは一朝一夕に身につくものではありません。そこには〝コツ〟があり、保護者がサポートできることもたくさんあります。そこで、「語彙力を鍛える」、「文章は接続詞で決まる」など文章論に関する多数の著書がある石黒圭教授に、文章力のつけ方についてお話をうかがい、加えて、親子間での円滑なコミュニケーションのとり方などについてのアドバイスもいただきました。


石黒圭教授

横浜市出身。国立国語研究所教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文章論。著書に『文章は接続詞で決まる』(光文社)、『語彙力を鍛える−量と質を高めるトレーニング−』(光文社)、『心を引き寄せる 大人の伝え方集中講義』(サンクチュアリ出版)、『この1冊できちんと書ける! 論文・レポートの基本』(日本実業出版社)など。
※所属、役職などはすべて取材時のものです。

言葉の複数の意味を理解し、文脈に応じて使い分ける力が大切

 読み手に対して、説得力のある良い文章を書くためには、言葉の効果的な表現・活用が大切です。これまで留学生など外国人に日本語教育を行い、現在も日本語教育について研究している経験から、単に言葉をたくさん知っていれば良い文章が書ける訳ではないと感じています。
 文章を書く時には言葉のニュアンスの違いを知り、前後の文脈に合わせて使い分ける力が大切です。ここでは語の組み合わせについて「車両」「列車」「電車」「鉄道」の違いを例に考えてみましょう。「女性専用車両」や「車両故障」は「車両」、「お座敷列車」や「夜行列車」は「列車」、「電車通学」や「満員電車」は「電車」、「鉄道マニア」や「鉄道模型」は「鉄道」でなければなりません。「女性専用鉄道」や「夜行車両」、「満員列車」や「電車模型」の組み合わせはどこか変だと感じる感覚がポイントです。
 一方、書かれた文章を理解する時には、一つの言葉が持っている複数の意味を知り、文脈に応じて適切な意味を呼び出せることが必要です。一口に「ブラック」と言っても、ブラック・コーヒーなのか、ブラック・ジョークなのか、ブラック・リストなのか、労働環境の悪いブラック企業を指しているのか、文脈によって意味が異なります。一つの言葉がその文脈の中で、どの意味で使われているかを見抜かなければ、適切な理解は難しいでしょう。これは日本語に限らず、英文読解でも同じことがいえます。英語のfineは多義語で、「上質の」「細かい」「晴れている」「元気な」「罰金」などの意味があります。それぞれの意味を知り、かつ、文脈に合わせて適切な意味を想起する能力が必要なわけで、これは受験勉強にも通じるところがあるでしょう。知識を詰め込むだけではなく、頭の中で知識をネットワーク化して、思考する回路を作らないと、本当に知識を運用する力は身につきません。この辺りのことは国語、小論文に限らず英語や数学にも通じるところがありそうです。

立場を変えて考えることによって視界が開ける

 推薦入試やAO入試で課される課題文、あるいは小論文入試に取り組む時には、問題や課題を出題する側に立って考えてみるという方法が効果的です。受験生は通常は与えられた問題を解く立場ですが、立場を変えて、自分が出題者になったつもりで問題文を読んでみると、これまで見えてこなかった多くのことが見えてきます。自分が出題者ならどの部分を出題するか、どんな解答を期待するかをまず考えてみてください。それがわかれば、論理展開を重視してほしいと考えているのか、ほかの人にはないひらめきを期待しているのか、などといった出題者の意図が手に取るように分かります。
 このように立場を変えて考えることで、読み手が求めている内容を類推することができ、読み手である採点者の求める内容に合わせて文章を書くことができるようになります。大学が求めている内容を端的に表しているのが「入試概要」や「アドミッション・ポリシー」と呼ばれるものです。志望大の概要は、早めに確認しておきましょう。

3段階ステップトレーニング

 読み手の立場に立ち、出題者の意図を理解することは、次の3段階ステップで練習を積むことによって自然にできるようになります。
 第1段階では、3人から4人ぐらいの友人同士でグループになり、課題となる同一の文章を読み、意見を出し合います。これはピア・リーディングと呼ばれる方法で、課題文を読んだ後にそれぞれが筆者の意図をどう読み取ったのかを出し合い、お互いに検討します。他人の意見からは、自分には無かった視点などを読み取ることができ、課題文への理解が深まります。
 第2段階は、一人ひとりが先生役になって、課題文やそれに対する各人の意見を整理し、別のグループの、その文章を読んでいない人に説明をします。そして、その人に後で元の文章を読んでもらい、説明がどのぐらい適切だったか、評価してもらいます。先生役として人に説明し、それに対するフィードバックを得ることで考え方が整理され、自分の中に定着します。これによって読解力がアップします。
 第3段階では、既に示したように、自分が出題者なら、どのような問題を出題するかを考えます。自分が出題者になることで出題者の気持ちを理解することができ、さらに読解力が上がります。このような3段階ステップの練習によって、文章に主体的に関わることができ、読む力が向上できるのです。

解答の文字数の制限が厳しい時は、むしろ内容を拡大して考えてみる

 小論文入試や課題文の中には、字数制限が厳しい場合もあります。限られた文字数の中で、文章の説得力を上げるためには、できるだけ良い具体例を使うことです。「なぜなら」や「例えば」を用いて、具体的な根拠や例を示すことによって、読み手に対する説得力を増すことができます。
 ただ、「なぜなら」は、自分の意見の根拠を示すものであり、そのため、どのような根拠を示すかが大切です。抽象論は避けた方がよいでしょう。また、「例えば」はできるだけ多くの例をあげることで文章の説得力を上げるものです。そのため、考え方を拡大して、できるだけ多くの具体例を考えられるようになると良いでしょう。
 しかし、字数制限がある場合、考えたすべての具体例を文章の中で使用することはできません。その時は、より説得力がある根拠や例を厳選します。選択肢を増やせば、その中から最も説得力のある具体例に絞り込め、文章の質を上げることにつながります。解答のための文字数が少なく制限されているということは、良質な根拠や例、言葉を選ぶという指示だと考えた方が良いでしょう。そのために自分の中で選択肢を増やすのです。文字数を短くするために、選択肢を増やすのは、一見すると矛盾しているように思うかもしれません。しかし、少ない内容の文章を引き伸ばすより、多くの内容から必要な部分を選び出す方が内容は濃くなります。そうした地道な作業を経ると、説得力が着実に上がります。

子どもの文章力を上げるために保護者ができること

 前節で述べた「なぜなら」や「例えば」に該当する根拠や例は、日頃から意識して知識として蓄積しておくことが必要となります。そのための練習として、家族で「例えば」に該当する内容をできるだけ多く考える競争をすることなどを行ってみてはいかがでしょうか。これは家庭内で楽しみながら表現力を高める方法の一つです。小論文の入試問題を素材にした場合、家族が入試に精通していなくても、子どもとは異なる視点で根拠や例をあげられれば、十分に効果があります。家族でゲームのように取り組むと競争心に火が付き、思わぬ盛り上がりを見せることもあります。
 このほか、子どもが自分で考える力をつけるためには、できるだけ対話を多く行うことも大切です。その際、保護者が答えを与えるのではなく、「どうして?」や「どうすればできる?」など疑問の形で言葉を返すことを心がけます。保護者が対話の中で安易に答えを与えてしまうと、そこで思考が止まってしまいます。そのため、答えを出すのを少し我慢して本人に考えさせることが重要です。
 ただし、物事を考えるためには発想の枠組が必要となります。こうした自分の視点で考えるための枠組を育むためには、日頃から本人が考えるための材料を与えることが大切です。その際には比較という観点が有効です。例えば、複数の新聞社の社説などを利用することが考えられます。事実、インターネットを見るとそうした社説比較サイトはいくつも見つかります。また、文章で適切な素材がない場合は図表を使用しても良いでしょう。この〝比べてみる〟という方法は、思考に行き詰まり、発想が出てこないときにはそれを打破する非常に効果的な方法です。課題となっている物事に対して、類比的な思考(似たものを考える)、対比的な思考(違うものを考える)のどちらかのアプローチを取ると、考えるきっかけとなる手がかりが見つかり、道が開けることがよくあります。
 こうして、保護者が生活の中で手伝ってあげることで、日常の中で物事を比較したり、多角的な視点を得る機会を提供したりすることができます。それによって、子どもは、文章を批判的に理解したり、相対的に物事を検討したりする力を身につけることが期待できるでしょう。

書き言葉と話し言葉、SNSは〝打ち〟言葉

 言葉には、情報を伝える役割と気持ちを伝える役割があります。その点から見るとSNSは、情報伝達の役割もありますが、どちらかと言えば、共感のためのツールとしての役割が大きいのではないかと思います。そのため誰とコミュニケーションを行うかが重要になります。その上で、SNSには通常のコミュニケーションとは異なる特徴があります。それは「打ち言葉」という特性です。
 言葉というのは、「書き言葉」と「話し言葉」に大別できます。書き言葉は文字によって情報が伝達されます。それに対して、話し言葉は音声によって情報伝達がなされます。書き言葉は、書き手が読み手に対して伝えたい内容を文章にします。論理や構成を検討しながら、ある程度の時間をかけて書かれています。読み手にとっては、数分で読める文章でも、書き手は数時間をかけている場合もあり、それなりに練られた内容です。しかし、話し言葉は、話し手と聞き手が必要とする時間は同じで、ニュースや大学での講義など、準備のあるものを除くと、言葉の選択に慎重さを欠く場合もあります。
 これに対して、SNSはどうでしょう。確かに文字を打ってはいますが、コミュニケーションの相手との往復の速さや内容などは、書き言葉よりは話し言葉に近いでしょう。また、スマートフォンなどには自動変換機能があるため、文章の推敲など無しに条件反射的にレスポンスを返すこともあるでしょう。このようにコミュニケーションの過程で、書く行為が話す行為に変わってしまっているのです。これが「打ち言葉」です。打ち言葉は、お互いに話をしている感覚ですが、打たれた(書かれた)文字は残ります。後になって自分が打ったメッセージだけをつなげて読んでみると、配慮に欠けた表現となっていて後悔したことのある人も多いのではないでしょうか。また、メールでは、文例集や過去の同じような内容のメールをコピーして貼り付けることが簡単にできます。しかし、メールとは本来、一通一通を特定の相手のために個別に目的を持って書くものであるため、一般的な文章である文例集を貼り付けただけでは、なかなかこちらの思いが相手の心に届きません。確かに自動変換機能は便利なツールですが、機械が示す変換候補は案であり、どんな言葉を選ぶのかは、人間が考えて選ぶことが大切です。主体はあくまで自分であって、ツールに使われてしまっていては、文章表現の質を上げることはできません。

そっと見守るまなざしが親子間の信頼関係を築く

 言葉の選び方や表現方法を考えることは、文章で表現する以外の日常のコミュニケーションでも生かすことができます。河合塾の調査で、受験期を振り返って子どもが保護者に対して「感謝していること・嬉しかったこと」の中で、「模擬試験の成績が悪くて落ち込んでいる時に何も言わず、放っておいてくれたこと」という回答が多く見られるそうですが、ここにはコミュニケーションに大切な要素が含まれています。
 コミュニケーションとは、「話すこと」や「伝えること」だけではなく、「聞くこと」が非常に重要です。さらに「距離をとる」ことも重要な要素です。つまり、模擬試験の成績が悪くて子どもが落ち込んでいる場面に当てはめて考えると、「距離をとる」こととは、つまり「話しかけない」ことになりますが、この場合それ自体がメッセージとなっています。「放っておいてくれたこと」に対して感謝の気持ちを持っているのは、落ち込んでいる子どもを無理に励まさないで、そっとしているというメッセージが伝わっているからです。本当に放置しているのではなく、必要に応じて聞く耳を持っているという態度に加え、そっと見守っているというまなざしがどこかにあることが親子間の信頼関係を築くのです。
 なお、言葉をかける場合でも、「成績が悪い」などの直接的な言い方ではなく、子どもがどう受け止めるかを考え、相手を傷つけない方法を意識すると良いでしょう。その際の大切なポイントは「何を言うか」ではなく「何を言わないか」ということです。「友だちは理解があるが、愛情はあまりない。親は愛情にあふれているが、理解がない」などと言われます。保護者としては、愛情の押し付けにならないよう、いかに理解しているかを示すことが大切です。時には共感するだけで良いときもあるのです。







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